国連・子どもの権利委員会
第3回日本政府報告書審査を傍聴して 〜とりあえずのご報告
山下 雅彦(東海大学教授)
*第3回市民・NGO報告書をつくる会起草委員/DCI日本支部運営委員(熊本セ
クション)
子どもの権利のための国連NGOであるDCI(Defence for Children
International)日本が主催する傍聴ツアーに参加し、5月29日夜、帰国しまし
た。ジュネーブ滞在中は時差ボケなどなく元気いっぱいだったのですが、家に着いた
とたん疲れがドッと出てきました。でも、いやな疲れではありません。
不可解な国連の事情・都合から今回は傍聴が制限され、全体で百人を超える日本人希
望者の中で実際に1日半の全日程を傍聴できたのは幾人もいないでしょう。 私が傍
聴できたのは初日(27日)冒頭の3時間だけでしたが、メモするのももどかしいほ
ど鋭い質問の連続で、緊張感と感動いっぱいの濃い審査でした。
開会前、見覚えのある顔――熊本の取り組みでご一緒してきた栄留(えいどめ)里美
さんの姿を認め、うれしさと心強さがわいてきました。彼女は、滞在先のリーズ(イ
ギリス)から単身、国連に“乗り込んで”来たのです。
さて、日本政府代表団は上田秀明氏(ジュネーブ日本政府代表部人権人道担当大使)
をトップに、7省庁から志野光子外務省人権人道課長をはじめ22名の役人から構成
されていました。
片や迎える国連子どもの権利委員会(CRC)は、ゼルマッテン委員(スイス)を議長
として、日本審査担当特別広報官(ラプツール)で私たちにはおなじみのクラップマン
委員(ドイツ)を旗手とする9名の委員です。
上田団長の冒頭発言のあと質疑に入りましたが、いきなり核心に迫る矢継ぎ早の質問
の連続で、冗長で要領を得ない日本政府の答弁には途中でも遠慮なく割って入りま
す。第一回(1998年)の審査で、「報告書はもう読んでいますから、同じことを
繰り返さないでください。率直な対話をしましょう」と再三“注意”されていたこと
を思い出しました。
いずれ審査の全体像をつかんだあと、より正確かつ具体的なご報告をさせていただき
ます。きょうは、私の印象に残ったいくつかの点の〈とりあえずの〉列挙です。断片
的で不正確さを含む素描であることをお断りします。
●「子ども手当」や「公立高校授業料無償化」、「青少年育成施策大綱」や「子ど
も・若者育成支援推進法」などをあげ、条約を着実に実行してきたと語る日本政府側
に、“ビジョンや態度、計画や法律の紹介より、条約にのっとって困っている子ども
たちのためにどんな具体的な行動の前進があったかを知りたいのです。国際的に見て
も日本の貧困化は進んでいます。福祉・教育などへの予算配分は削られているじゃな
いですか?”“学校教育について、必要な情報も提供されていません”
●“21世紀だというのに、日本でもまだ体罰があるんですね。この不当不法な体罰
はちゃんと告訴・処罰されていますか?”“裁判所で条約は援用されていますか?裁
判官への条約に関する研修はなされているのですか?”
●“いまだに独立した監視メカニズム(子どもの人権オンブズマンなど)がありませ
んね”“条約にもとづく法律の制定や修正が進んでいないのはなぜですか?”
●“たとえば「子ども・若者育成支援法」をつくるプロセスにおいて、子どもや市民
社会・自治体の参加はありましたか?”
●“ひとり親、とくにシングル・マザーのためにどんな支援措置がとられています
か?”“里親制度の促進は?”“日本報告書では「児童相談」に焦点が当たり、指導
(guidance)という言葉が多用されています。なにか児童相談所に行けとみんなで勧
めているような印象
を受けます。行かなくても済むようにするのが大事ではないですか?子どもを守るた
めに子どもの自由を奪っているといった矛盾を感じます”……
いかがでしょう?ピックアップしたこんな話からだけでも、私が抱いた手応えを共有
していただけるのではないかと思います。
ちなみに、審査前日に行われた日本の子どもたちのプレゼンテーションも、8人(大
学生・中学生)で20分弱という制約にもかかわらず、9人の子どもの権利委員会委
員(日本審査担当のChamber Bから6人のほか、Chamber Aからも3人)を前に堂々
となされたそうです。
委員たちは真摯に向き合ってくれ、ある委員が「審査に反映できるようにする」と
返してくれた場面では思わず涙をこぼした男子学生もいたそうです。
合宿までして何度も練習した英語は完成度も高く、「正確なインパクト」で「国連
を動かした」というのが寄り添った参加者の感想です。
ところで、私が統一報告書の起草に加わった第31条(遊びや文化の権利)に関して
も、前進がありました。委員は、明らかに市民・NGOレポートを読んだ上でそれを
引用して質問しています。“とにかくインパクトを。活かされるレポートを”とサマ
リー(要約)版までつくって最後までねばった私たちの苦労が報われた瞬間です。
●“調査によると、日本の15歳の30%が「さびしい」と孤立感を味わっていま
す。また、遊ばない子ども、一人だけで遊ぶ子どもも多数にのぼります。政府は遊園
地の数などをあげていますが、はたして子どもの<遊ぶ権利>は尊重されているので
しょうか?”
●“競争社会や遊ぶ環境の問題だけでなく、ライフバランスを見直し、家族に加わっ
ている<圧力>を取り払う必要があります。人権を文化の一部として考えることに私
たちは関心をもちます”
きょうの仮報告のさいごにお伝えしたいことが2
点あります。
その1つ。初日の夜、DCI日本ツアーグループが開いた夕食交流会で、招待さ
れたクラップマン、フィ
ラーリ(アルジェリア)、ポラー(ウガンダ、元少年兵)の3人の委員が口をそろえ
て、こうおっしゃっていました―「私たちは、みなさんが書かれた市民・NGOレ
ポートを読んではじめて政府報告書の審査がちゃんとできます。それは貴重で必要な
ものです」。
私たちがこれまで全国各地で取り組んできたこと、また基礎報告書や統一報告書に盛
り込んだデータや事例や思いは審査で重視されています。
もう一つ、3人が共通に言われた「子どもの権利を実現するたたかいはこれからも続
きます」「休まないでください」―”GO ON and GO ON!”という言葉が耳に残ってい
ます。
クラップマンさんが中心になってまとめる今回の審
査の最終所見(勧告)は、6月14日に公表されるそうです。また、DCI日本では
クラップマンさんをお招きしての(二度目)大集会を、8月14日に東京で開く予定
です(他に仙台や大阪でも…?)。
――以上、きわめて不十分な“ジュネーブ速報”ですが、ご参考になれば幸いです。
(2010年5月30日)
2010年06月05日
国連・子どもの権利委員会第3回日本政府報告書審査を傍聴して 〜とりあえずのご報告
posted by 事務局 at 10:47| Comment(0)
| 木附千晶
